第51回起業成功塾に参加して著作権のことを改めて考えてみた。
Publish2015/09/25(金)
2015年9月17日に行われた起業成功塾に久々に参加してきました。
今回の起業成功塾は、著作権がテーマということで、あらた法律事務所に所属されている弁護士の細井先生のお話を聞いてきました。
著作権についてはまずwikiでおさらいしておきましょう。
著作権(ちょさくけん)はコピーライト(英語: copyright)とも呼ばれ、言語、音楽、絵画、建築、図形、映画、コンピュータプログラムなどの表現形式によって自らの思想・感情を創作的に表現した著作物を排他的に支配する財産的な権利である。著作権は特許権や商標権にならぶ知的財産権の一つとして位置づけられている。 著作者の権利には、人格的な権利である著作者人格権と、財産的な権利である(狭義の)著作権とがある。
著作権
今回は聞いた内容で注目すべきポイントなどを織り交ぜながら僕個人の感想を書こうと思います。
著作権の概要
著作権については、僕も制作をすることもあり結構意識している方ではありますが、一般的に見ると「そういうルールだったんや」と思うことも結構あると思います。
例えば著作権は他の申請が必要な権利と違って、無方式主義による申請が不要な権利になります。
要は、作った時点で自動的に権利が発生するものであると思うとわかりやすいです。
著作権は、著作者の権利を保護することを目的としているものなので、保護しようとするということは独占的な権利を有するものでもあります。
自動的に発生して、しかも独占的な権利があるという強い効力のある法律なので、きちんと知っておかないと大変だということはわかるかと思います。
著作権は著作者の有する権利ですが、似たようなものに特許に関する「特許権」、デザインに関する「意匠権」、商標に関する「商標権」があり、これらは登録を申請する必要のある権利になります。
また、著作権の効力は著作権者の死後50年で消失するのですが、商標権は登録から10年、意匠権は登録から20年と適用期間も異なります。
著作権を侵害すると民事上と刑事上の責任が発生し、民事上の責任は「故意、過失でも発生」し、「損害賠償や差し止め請求」ができます。
知らなかったでは済まないですし、差し止めで使えなくなってしまうと業務や事業停止のリスクを負うことになります。
刑事上の責任の場合は、故意の場合のみとなり懲役10年以下、1000万円未満の罰金になりますが、法人の場合は3億以内の罰金になり、法人でやっていると会社を倒産させる引き金にもなりかねません。
これらは親告罪という「誰かに訴えられる」事で発生するものなので自動的に発生する事ではありませんが、裁判で負けると大変な事になってしまいますね。
過去にも著作権で揉めるケースでは、きちんと対話を行う事で和解が成立するというケースもあるそうなので、著作者と利用者のバランスと調整が重要であるといえます。
著作権を侵害していると判断される3要件について
では実際に著作権を侵害していると判断されるポイントはどこにあるのだろうと気になると思います。
裁判所では「著作物性」「依拠性」「類似性」の3点を総合的に判断して判決を決定するというのが一般的なようです。
それぞれの内容は以下のような感じです。
著作物性
著作物性の有無があるかどうかというのは判断を行う上で非常に重要らしく、具体的には作ったものに対して「創作性」があるかどうかという事を基準に考えるそうです。
具体的には、著作者の個性があるかどうかがポイントで、「平凡でありふれた表現」「事実やデータ」「名前やタイトル」「アイデアそのもの」には著作物性がないと判断されるようです。
ただし、「事実やデータ」でも配置を工夫したり見た目の要素を加えるなどして改変すれば著作権を有すると判断される場合もあるそうです。
これは弁護士の先生が言っておられた事ではないですが、おそらくインフォグラフィックなどが該当するのではないのかなと思って聞いてました。
依拠性
依拠性については、制作物を制作する際に「同じものを作る」「コピーする」事を目的としているかどうかが基準になります。
偶然同一の形状などになった創作物の場合では、著作権侵害と認められない判例もあるそうです。
この場合の判断基準としては、「同じものを見ていないことの事実確認」が必要になるので、「見た事がない」という証言があれば、それを立証する必要もあり、依拠性の有無は判断が難しいと思います。
類似性
最後の指標はその制作物の各要素に「似ている、もしくは同一」な表現が使用されているのかどうかが判断の基準になります。
また、類似性がある場合はその要素の個数も重要になります。
「表現形式上の本質な特徴を直接感得できるかどうか」と先生はおっしゃられていましたが、「これは似ている」「これは似ていない」というようなふわっとした感じではなく、「目の色が同じである」とか「帽子の形状と色が同じである」とか具体的な言葉として判断されるようです。
著作権侵害の具体例
セミナー中では実際の具体例として6つの事例が紹介されました。
それぞれが認められたのかそうでないのかを考えて挙手をするという形式だったので、先ほど得た知識を活用して考えるとても良い機会でした。
キャッチフレーズ・交通標語の事例
最初の事例はキャッチフレーズと交通標語の例でした。
「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」と「ママの胸より チャイルドシート」という2つの言葉を巡って実際に争ったそうなんですが、言葉自体に著作物性が認められるとこの言葉がその人しか言えなくなるという著作権の独占性の面から、公共性を欠くということにつながるので、著作物性は認められないという結論でした。
ただし、類似性の面では類似箇所があることもあり、和解することで解決したそうです。
言葉自体が誰でも使用するものであるということで、それが使えなくなると困るということを考えると、なるほどなと非常に納得できる内容です。
類似写真の事例
次の事例は見たような構図とモチーフの2枚の写真の場合です。
写真自体は著作物性が高いようで、物の配置や構図、モチーフの選択という点自体で創作性を認めるようです。
そのため、同じようなモチーフと構図という点で類似性があると判断され、著作権侵害を認めたという結論でした。
ここまではなるほどなと非常に納得できたのですが、話の中で「被告の写真の方が暗い」という理由で原告作品に依拠した改変・改悪として認められたという点が個人的にはしっくりきませんでした。
意図的に暗くしているのかもしれないのに、それが原因で劣化版というような判断されるというのは、少し裁判官の主観的な視点によるところではないのかと思うんですけど、どうなんでしょうか。
イラストの事例
次の事例は、同じテーマのイラストの場合です。
同じテーマを扱っているため、帽子・メガネ・ヒゲというような要素が被っているわけですが著作性は認められ、類似性は認められないという結論のようでした。
描いたイラストのテーマが同じ場合でも、イラストを描くということで著作物性が認められるのも、類似性が似ていないというのも納得できる感じでした。
細かい相違点(目の色が違うとか)で判断した事例として非常に興味深い事例でした。
ロゴマークの事例
次の事例はロゴマークなんですが、そのロゴが独自フォントを使用しているというところがポイントでした。
フォントも言葉と同様に一般性の高いものになるため、著作物性を否定し著作権侵害を認めないということでした。
ただ、ここでも僕は不思議に思ったんですが、「ロゴはただの文字なので、デザイン的な工夫がない」という判断をされたということだったんですが、この話のロゴはそれ専用にデザイナーがデザインしたものなので、文字という観点で考えるよりもビジュアル的な側面で判断する内容なんじゃないだろうかと思うんですよね。
説明では文字の場合でもアート表現と呼んで差し支えない場合であれば著作物性が認められるというのも、写真の時と同様に判断基準が裁判官の主観によるところが大きいというのは法律としていかがなものかなと思います。
応用美術の事例
その次の事例は幼児用の椅子の事例でした。
椅子のような実用性の高いものや産業上利用されるものの場合は、一般性も文字や言葉同様に高いものなので著作物としてとらえるのではなく、デザインということで考えるものということでした。
デザインは意匠権で保護される内容なので、今回の場合は著作権で保護される対象ではなく、意匠権で保護される対象であると考えるべきだというのはすごく納得できました。
ここでは余談として、一部独創性の高い商品については著作物性が認められた事例ができたそうで、必ずしも意匠権の範疇ではない場合も考えられるというのは、これまた判断が難しいなと思って聞いてました。
五輪エンブレムの事例
最後の事例は五輪エンブレム問題についてです。
この件についてはいろいろなところで意見が出ていますが、今回は「著作権を侵害しているかどうか」という点のみに絞って考えてみるという話でした。
これまでの流れを振り返ると、文字のように一般性の高いものには著作物性があると認められないということになりますし、依拠性の観点についてはデザイナー本人が「ベルギーに行ったこともあのロゴを見たこともない」と否定しているので、ここを争点にする場合はその点についての立証が必要になってきます。
また、類似性についても本人が会見時に否定しているので、デザイナー側としては著作権を侵害していないということになります。
弁護士という立場から見ても、あの時点でのあの答弁は「模範的な回答だった」そうです。
視点によっては「これでよかった」という部分が明暗は別れるかと思いますが、著作権を侵害しているかどうかという点では明確に認定されることは難しいという結論だったのは面白い話でした。
著作権ビジネスの話
最後に、著作権に挑戦する企業の実例の話を聞かせてもらいました。
例としてストビューの話をしてくれたんですが、ストビューも開始当初は倫理的な問題とか著作権や肖像権の問題などを考えると非常に問題の多いサービスでした。(今でもそうであると言えるかもしれませんが…)
でも、今となってみたらやっぱり便利ですし、ないということも想像できないくらい社会に浸透しています。
ストビューのように新しい価値観を生むというのは、これまでの社会通念を覆すような内容になるわけで、当然反発も多いわけです。
それでも、なぜそのサービスを展開しようとしているかといえば、そのサービスを提供することで新しい社会をつくる、新しい価値観を提供するという社会性の高さを実現することになります。
それを実行していくためには、意志の強さが必要不可欠であるということは聞いていて確かにそうだなと思って聞いてました。
著作権の考えとは一見相反することなのかもしれませんが、著作者の権利の保護と文化の発展に寄与することというような社会性のバランスを考えると、新しく始める事業も禁止されているからということで思考停止しないようにするということも大切だなと思う次第です。
まとめと雑感
このように今回の起業成功塾は非常によい内容でした。
一から著作権を考え直すという意味でも参加してよかったと思います。
あと、弁護士の先生らしく、プレゼンのしゃべる内容を全てカンペに書いて読み上げているところはすごく弁護士っぽくていいなと思いましたし、その物事を正しく伝える姿勢は見習うべき点が多いなとも思いました。
とてもすばらしい経験ができたよい時間になりました。
また積極的に参加していこうと思います。