コンテンツクロスメディアセミナーで坂口博信さんのお話を聞いてきましたレポート
Publish2017/11/01(水)
2017年10月30日(月)に京都のからすま京都ホテルで行われたコンテンツクロスメディアセミナーに参加してきました。
このセミナーは2回目の方に参加したんですが、参加した理由は講師の坂口博信さんの話にめちゃくちゃ興味があったからです。
坂口博信さんといえば、FINAL FANTASY(以下愛を込めてFFと略す。ファイファンではない。)シリーズを作った人で、FFが大好きで中学生からずっと大人になるまでプレイしていた僕からすると神様のような人なわけで、この機会は逃しちゃあかんなということで参加してきました。
参加してみて、やっぱり非常に面白かったなと思うので、内容をまとめました。
今回のセミナーは、ファミ通編集長の林克彦さんがモデレーターになり、坂口さんに10個の質問を投げかけていくスタイルでした。
FFがなぜ生まれたのか?
まず最初は、とっかかりとなる部分で、なぜFFはこの世に誕生したのかという話でした。
FF開発当初は、ゲーセンなどのシューティングが主流の時代で、家でするゲームにRPGというジャンルはなく、その販路もなかったので、結構チャレンジしないといけない状況だったそうなんですが、あるゲームによってその状況が一変し、FFも発売する流れになったそうです。
そのゲームというのが、ドラゴンクエスト(以下ドラクエと略)です。
ドラクエの登場により、家庭用ゲーム機でRPGというジャンルが確立し、その追い風もあってFFも誕生したというのはすごく面白くて、やっぱりドラクエはすごいなと思いました。
また、そういう時代的な背景とは別に、ゲームロムのデータ容量をどう削減して詰め込むのかという技術的な問題の解決や、「どれだけ綺麗な絵をどれだけ早く出せるか」というこだわりなども発売されるFFに乗せていったという話も非常に興味深かったです。
また、FFが展開していくことに当たって、「誰がやっても引き継がれる個性」という作品の世界観を作っていった話も非常に面白い話でした。
スタッフはどうやって集めた?
次の質問は、FFの開発スタッフについての話で、開始時のメンバーがどうやって集まってきたのかという話でした。
FFの開発初期メンバーは、僕の印象でも個性が強い人が多いというイメージでしたが、それは坂口さん自身もそう思っておられるようでした。
ただ、それは狙ってそうなったわけではなく、「知識」と「絵を描ける画力」をもとに集めたらああなったというのがすごく面白かったです。
最初にはじめるメンバーってすごく大切だと思っていて、その時にどういう人と一緒にするのかがそれから先の成果物に与える影響は多いと思っています。
なので、「誰とするか」はやっぱり大切だなと思うわけですが、その選択をする際の基準が、人間性や性格とかよりもその人が持っている可能性や能力を重視するというのもやっぱり面白いなとか思います。
この辺は人によりけりだとは思いますが、チームで作っていくものでもやはり個人のスキルは重要なわけですし、そこを大切にするというのも重要だなと改めて思ったわけです。
あと、その個性が強いメンバーがどのようにFFという作品に一つにまとまれたんだろうというのは疑問でしたが、当時の状況でアメリカのメンバーからの英語を坂口さんが取りまとめ、プログラマーなどのメンバーに伝えるという工程があり、それがあったからこそチーム内の意思統一が行われ、意識の共有ができていたんじゃないかという話も非常に興味深い話でした。
各自が分離して動く形ではなく、ワークフローの一本化が行われることで、開発スピードは遅くなるように思われても、チームの意識が一つに集約される方がよかったため、一見開発スピードは遅く見えても結果としてその方が早く高品質なものができるというのも実体験からくる言葉で非常に興味深いです。
この辺は他の業界でも言えることなんじゃないかなとか思います。
また、開発メンバーには人を驚かすのが好きな人が多かったという点と、開発メンバー間での競争もいい効果があったという話も非常に面白かったです。
例として話されたのが飛空艇の話で、当時開発メンバーでも多くの人は「飛空艇は早く飛ばす必要はない」と思ってたらしいです。
それよりも切り替わり時の滑らかさを重視した方がいいという意見が大半でしたが、あるメンバーが必死で高速に飛ぶ飛空艇の動きを作ってきて、その動きを見てみんなが「飛空艇が速いとめちゃくちゃすごい」という雰囲気になったそうです。
こういう部分ってものを作る時にすごく大事だなと思っていて、予想通りではなく、予想を超えてくるものというのは、それまで思っていた物差しでは計れない部分にあるので、それを開発メンバーが自主的に「自分はこうなったらすごいと思う」というものを作ってくる文化というのは素晴らしいなと思うわけです。
組織が大きくなると、そういう行動は制限されがちですが、本来はそういう「予測してなかったけど、予想を超えてくるもの」というのは人に強烈なインパクトとして残るものだと思うんですよね。
僕も実際にFF3をプレイしていて、「エンタープライズめっちゃ早いw」って思ってて、今ではその時の衝撃は忘れてないので、こういう「人に心に残るもの」っていうのはそういう予測を超えてきて作られたものになるんじゃないかなと思います。
天野さんと植松さん
次の話は、FFのビジュアルを作った天野喜孝さんとFF音楽を作った植松伸夫さんの話でした。
まず、天野さんのエピソードで面白かったのがFF1の広告の話で、坂口さんが何度も「広告は横向き」って言ってるのに、縦書きのビジュアルを作ってきて結果それが紙面に掲載されることになったそうなんですが、横だとおもしろくなかった構図が、縦にすることでダイナミックになり、結果紙面のインパクトが上がったのと同時にFFの世界観をすごく表現できている広告になったというのがすごく面白かったです。
広告のインパクトと世界観とかは、デザイナーであれば誰もが考えることだと思うんですが、決まったルール内で対応するのは当然のことだと思いがちです。
でも、そのルール内でやることで表現に制限がかかり、伝えたいイメージから離れてしまうこともあるわけですよね。
そう考えると、ルールを守るのは基本ではあるけど、時にはそのルールを超えてもっといいと思える表現にこだわってみるというのも一つの形なのかなと思いました。
すごく勇気がいることではありますが、他との差別化や頭一つ抜けた印象を作るという意味では、ルールを絶対に守るというのも判断は難しいかなとか思っています。
なお、天野さんではなく、今一緒に仕事をしているイラストレーターさんの場合は、「線から感じる色気があり、それそのものが個性」と言っておられました。
やはり絵から感じるものっていうのは、人の心を揺さぶってきます。この辺は本当にすごいなと思うんです。
植松さんのエピソードで面白かったのは、一番最初のテイクをボツにした話で、2テイク目は曲順入れ替えただけで通った話です。
坂口さんは、どんないいものであっても最初のテイクは絶対ボツにしようと思っていたようで(もちろん色々な理由から)、最初はさらっと流す程度でボツにしたそうなんですが、その後の2テイク目を聴いて、これはすごいということでOKを出したそうです。
しかし、OKが出た曲は最初のテイクの順番を変えただけのもので、結局最初に作ったものの時点ですごくいいものだったというのが非常に面白かったです。
ターニングポイント
次の話は、FFが変わったターニングポイントの話で、ジャンプの編集長の鳥嶋さんが初対面なのに1時間ダメだしをしたという話が強烈でした。
普通、初対面だとある程度気を使うというか、距離感を見たりするものだと思うんですが、初対面でFFのダメなところを1時間にわたってダメ出ししたそうです。
しかし、それによってFF4.5.6ではキャラクターが立ったので、ストーリーがよくなったというのも納得でした。
ジャンプといえば、漫画家を編集者が育てるというイメージがあるわけですが、それと同じことがFFでも行われ、結果としてFFのキャラクターにキャラクターとしての深みが増し、ゲームの面白さに奥行きを持たせることができたということであれば本当に素晴らしいことです。
ジャンプという、当時最前線のキャラクタービジネスのノウハウが、FFにも継承されているとか考えると、それだけで面白いです。
次のターニングポイントは、やはりFF7の時でした。
FF7といえば、当時発売されたばかりのハード「PlayStation」で発売されるFF最初の作品で、これまでと大きく異なるポリゴンで動くキャラが話題になった作品です。
当時、バーチャファイターなどのゲームでポリゴンで動くキャラが出ていたとはいえ、それをRPGでする意味はあるのかというような論調が多かったように記憶してます。
(当時高校卒業直後くらいだったので、その辺はよく覚えています。)
しかし、開発側では「従来路線で本当にいいのか?」という議論がされていて、実際作ってみないとわからないだろうということで、実際にプロトタイプを作ってみたそうです。
やってみたところ、うまくできたのでそのまま進めることにしたそうなんですが、形にすることで実際にリリースされる時のイメージができたことが一番大きかったそうです。
また、FF7を作るにあたって、3Dを作れる人をチームに入れる必要があり、これまでいなかった種類の人たちが会社に入り、これまでいた人たちと新しい化学変化が起きたことも大きかったそうです。
また、FF7を作ることで、これまでアメリカでは売れないと言われていたゲームが、立体的になりリアルさが向上することでアメリカ文化でも受け入れられる形になるだろうということもあり、「あ、アメリカで売れる」と気づいたことも大きなポイントだったようです。
映画/オンライン
次の話は映画とオンラインの話で(質問としては映画、オンラインで別項目だったけど結果としては一つの話になっていた)した。
FFは映画も作っていて(あまり成功はしなかったみたい)、その時なぜ映画に乗り出したのかという理由を話されていたんですが、当時坂口さんはまだゲームでの3Dの映像表現と映画(特にハリウッド)での3Dの映像表現は天と地ほどのレベルの差があると考えていたそうです。
なので、映画をすることで、映画サイドで行われている3Dの技術をゲームにも生かし、3Dのレベルを引き上げたいという思いがあったそうです。
それを聞いて思ったのは、あくまで貪欲に技術を追求することがすごいなと思う感覚と、技術を引き上げるためなら他のジャンルにも躊躇なく行ける行動力の凄さでした。
やはり、思いと行動力がFFを牽引していたんだなとか思うと、いろいろこみあげるものがあります。
オンラインについては、当時ようやくネット環境が整ってきたことで、始めることができそうだというタイミングで当時坂口さんが気になっていたネトゲを会社命令でやってもらったそうです。
はじめはネトゲに不安を持っているメンバーも、実際にプレイしてみて「これはすごい」という可能性を感じ、開発スピードが上がったそうです。
こういうところは見習わないといけない点で、人はどうしても過去の経験や思い込みでものを考えがちで、新しい文化が生まれた時に経験もせず否定してしまいがちだということです。
実際にやってみたら違う感想になるのに、どうしても一歩踏み出せていない感というのはよくないですよね。
当日坂口さんも「やったもん勝ち」という話をしておられましたが、「まず形にする」という意味でやった人だけが到達できること、見える世界というのはあるので頭で考えて判断せずに、まず飛び込んでなんでもいいから形にしてみるということを今後もしていかないといけないなと改めて感じました。
作り続けた理由
その次の質問が、ゲームを作り続けた理由でした。
結果としては、3作おきにハードが変わったのが良かったようです。
というのも、作品自体は連続で出して入るものの、だいたい3作区切りでひとつのまとまりとして考えていたようで、その区切りごとに新しい作品を新しいハードで出していく面白さがあったというのはすごく納得できました。
また、ハードが変わると必然的に必要な技術も変わるので、チームメンバーも変わることも大きかったようです。
3作ごとくらいでメンバーが変わるようになっていると馴れ合いも増えないので、作品を作るモチベーションも上がったんだろうなと思いました。
ただ、それはそれとして理屈ではありますが、坂口さんの話を聞いていて思ったのは「思いついたらやりたくて仕方ない」というメンタルの面が大きいんだろうなとは感じました。
条件とか環境も大事ですが、何よりも本人自体が「楽しんでいる」、「好きでやっている」という部分はやっぱり大きいぞと思って聞いていました。
また、「ゲームシステムとストーリーは馴染まない」という話も面白くて、システムとストーリーは水と油なので、ゲームに寄り添えるストーリーが難しいという面もあったというのも面白い話でした。
ストーリーが面白いだけで面白いゲームが作れるなら、ストーリーライターを雇えば面白いゲームができるはずですが、実際にはストーリーとゲームシステムという相反する要素を総合的にいいバランスで作っていくことが重要で、だからこそ難しいわけで、そのぶんそれをする人が少ないため、常に面白いと思えることにチャレンジできた環境もあったというのはモチベーションを維持していく上でも大きかったんだろうなとも思いました。
坂口さんが「未開拓なところを開きながら進んでいく感覚」とおっしゃられていましたが、まさにそういうところに面白さを感じるから今までやってきているんだろうなと感じました。
離れた時の気持ち
次の質問が面白くて、FFを離れた時の気持ちとしては「子供が立派になって独り立ちした時の親と子のような感覚」というのがすごくわかりやすかったです。
うちの子供はそこまで大きくないですが、今で小学4年生で、ある程度自分だけでなんでもできるようになってきました。
親離れする時期もそう遠くないことは明白で、その時にどういう心境になるのかなとか思い描くとやたらリアルに思い浮かべることができました。
FFという作品が生まれてから、ずっと共に過ごしてきたら子供と同じような感覚になるんだろうなというのはすごく分かるので、今回の話で一番リアルに感じた話でした。
一番好きなFF
次の質問は、一番好きなFFという質問でしたが、それを選ぶのは難しいということで、一番思い出深い作品はという質問になりましたが、FFではなく、「クロノトリガー」でした。
クロノは僕もプレイしたのである程度覚えていますが、確かにあれを作るのは大変だっただろうなと思います。
あれだけいうということは、本当に大変だったんでしょうね(笑)
今も作り続ける理由
その次の質問は、今の作り続ける理由。
作り続けた理由と似通った部分もありましたが、個人的に刺さったのは「プロジェクトとしての美しさを作りたい。」という言葉でした。
作品そのものだけでなく、そのプロセスまでを「美しく」ありたいと思う気持ちは、はっきり言ってすごいですね。
この部分に至る人はすごくレアなので、正直この言葉を聞いて衝撃でした。
でも、プロジェクトを進めるという点で考えるとすごく共感できる言葉でした。
今回このフレーズが聞けただけで来た価値があるなと思える最高のフレーズでした。
また、最近の坂口さんは実際のユーザーとの年齢差が出てきたので、その部分は大変になってきたということをおっしゃられていました。
これまでは、自分は楽しいと思えるものを作ってきていればそれでよかったけど、今は作っているゲームをプレイしている人とご自身の年齢差があるので自分が楽しいと思っているものを作っていてはダメなので、ユーザーを観察することを日々気にしておられるそうです。
ここですごいなと思えたのは、加齢による変化を楽しんでいる姿勢です。
自分が作るものと、ユーザーが望むもののギャップがあることを理解し、その上でユーザーが何を望むのかをユーザーの視点で考えようとする姿勢は素晴らしいです。
これって、言うは易し行うは難しというやつで、わかっていてもできないことの代表的なことだったりもします。
これを実践しているだけでもすごいことなので、その姿勢を見習いたいと思います。
質疑応答
用意されていた質問は以上でしたが、参加者からの質疑応答がありました。
その中で面白いなと思ったのが、「世の中の動向とゲームについて」の質問でした。
FPSなどが、銃社会での犯罪助長になっているのではないかというような、ゲームに対する社会からの反対的な視線というのはいつの時代でもあると思っています。
ゲーム開発側が、そのような意見に対してどういう風に思っているんだろうというのは気になりましたが、坂口さんの言われた答えですごくスッキリしました。
坂口さんは「世間に悪影響を与えるようなものを作っていないという自信はあります」と答えられました。
司会の林さんもおっしっゃておられましたが、作り手はもちろん犯罪を助長するような意図でゲームを作っていないし、ゲームを作る人もそういう心意気と自負を持って、プライドを持ってゲームを作っているという気持ちをすごく感じました。
人が何と言おうと、作る人はそういう気持ちで作っているということは、作り手側視点からしてすごくいい答えだと思います。
懇親会
セミナー終了後は、懇親会にも参加してきました。
懇親会では、坂口さんとお話しすることもできたんですが、緊張と酔いのせいで、なぜかセシルのことを聞いたりとか、ちょっと自分的に意味不明でしたが優しく受け答えをしてくれて、握手までしてもらえたのですごく幸せでした。
他の参加者の方とも、楽しいお話をすることもでき、非常に心地よい時間でした。
まとめ
今回は、僕の人生においても重要な位置付けにあるあるゲーム「FF」の生みの親である坂口さんのお話を直で聴けるという、ものすごく貴重でかけがえのない時間でした。
話も面白かったでしが、やはり「何かを成した人」の言葉の説得力はすごいなと改めて感じています。
ここ最近そのことばかり言っているような気がしますが、人の言葉と説得力には、その話す人の人生という重さがかかっていることで、言葉に重みが増すと思っています。
そういう意味でも、今回のお話はどの業界にでも当てはめて考えることができるお話で、とてもいろいろ考えさせられることが多いお話でした。
とても素晴らしい時間を過ごせて幸せでした。